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日本から生まれた世界初のノートPC「Dynabook」。その開発現場で変わったもの、変わらないものとは?

新生Dynabookとしてスタート

 東芝のPC事業を源流に持つDynabookは、現在、シャープグループとして事業を展開している。2016年4月に、東芝のPC事業は、東芝クライアントソリューション(TCS)として分社化。2018年10月には、シャープが株式の80.1%を取得して子会社化し、2019年1月にはDynabook株式会社に社名を変更した。2020年8月には、シャープが100%子会社化している。

 Dynabookの社名は、1989年に、東芝が世界初のノートPCに使用したDynabookブランドが発端だ。

 「 多くの人に知っていただき、愛していただいているブランドを社名にした」(Dynabook 国内事業統括部国内マーケティング&ソリューション本部の荻野孝広副本部長)というのが、現社名の由来である。

Dynabook 国内事業統括部国内マーケティング&ソリューション本部の荻野孝広副本部長

 もともとDynabookは、パーソナルコンピュータの父と呼ばれるアラン・ケイ氏による「ダイナブックビジョン」を語源にしている。コンピュータを、本のように持ち歩くことができ、単なる「計算機」ではなく、「インテリジェントな道具、学習のメディア」として、誰もが手にできることを目指したビジョンであり、社名とブランドには、このビジョンを達成するという意味も込められている。

 「 人がPCに近寄っていき、使う環境だった時代に、PCが人と一緒に動くことを提案したのがDynabook。仕事の仕方を変え、いまでは、プロフェッショナルが仕事をするために不可欠なツールへと進化した。Dynabookの歴史は、ノートPCの歴史そのものである。30年以上に渡って、人に寄り添い、人に喜んでもらえるものを作ってきたという自負がある。これからも、そういうDynabookでありたいですね」と、荻野副本部長は語る。

 1989年に発売した初代Dynabookの「DynaBook J-3100 SS001」は、A4サイズで、2.7kgという軽量化を実現し、世界中を驚かせた。型番に使用された「SS」には、スリムショックやスーパースリムなど、複数の意味を持たせていたという。

 Dynabookには、常に挑戦する姿勢があった。

日本から生まれた世界初のノートPC「Dynabook」。その開発現場で変わったもの、変わらないものとは?

 「 世界初や世界一となるPCを、市場に投入することにこだわってきたのがDynabookの歴史」と語るのは、Dynabook 商品統括部商品開発部の古賀裕一部長。1998年に世界最薄の19.8mmを実現して話題を集めたDynaBook SS 3000から開発に携わっている。

DynaBook SS 3000

 「 当時から、IntelとMicrosoftとは密接な関係を持ち、他社の先を行くような技術を生み出し、それをいち早く市場に投入してきた」と語る。

Dynabook 商品統括部商品開発部の古賀裕一部長

 それは、単に最新技術をいち早く搭載することによる差別化だけでなく、新たな市場を開拓する役割を担ってきたことを意味する。1996年に発表した「Libretto 20」は、VHS規格のビデオカセットテープとほぼ同サイズながら、Windows 95を搭載。小さな筐体でもフルスペックを実現し、ミニノートPCという新たな市場を開拓してみせた。

Libretto 20

 この時期、社内には設計部と開発部があり、既存製品の進化を担当するのが設計部、新たな市場を開拓するのが開発部だった。これまでないカテゴリのPCとして登場したLibretto 20は、開発部があったからこそ生まれたPCであったと言えよう。

 「 既存モデルの後継機という視点だけで考えていると、新たなものがなかなか生まれない。既存モデルの進化としての枠組みで発想するのではなく、ゼロから発想し、それまでの常識を逸脱するような製品を開発できる環境が社内にあった。危機感や向上心を持ち、常にピンチであるという姿勢があるからこそ、アイディアが生まれ、新たなことに挑戦できた」と、当時の様子を振り返る。

 古賀部長にとって特に思い入れがあるのが、2010年に発売したdynabook RX3だ。その源流となっているのは、光学ドライブを搭載しながら、薄さ19.5mm、重量848gという世界一の軽量、薄型を実現した12.1型モバイルノートであるdynabook SS RX1だ。3世代目となるRX3は、13.3型液晶、2.5型HDDのほか、スタンダードボルテージのCPUを先行して採用し、世界最軽量を実現しながら、コストダウンを図り、モバイルノートを、よりコモディティ化することに成功した製品だった。

dynabook SS RX1dynabook RX3

 「 ユーザーに不自由をさせないというのが、歴代のRXシリーズに共通したメッセージ。必要とされるインターフェイスを搭載し、それでいて、高性能、軽量化、コストを高い次元で共存させた製品を実現した」とする。

 特別な部品を使うのではなく、広く使われている部品を使用し、高いコストパフォーマンスを実現するモノづくりは、このときにスタート。それは、現在のdynabook Gシリーズにも受け継がれている。

dynabook G8

 また、2011年に発売したdynabook R631は、同社初のUltrabookであったが、Ultrabookを提唱したIntelとは別の形で、独自に薄型のBtoB向けPCの開発に着手しており、両社の別々の動きが、共通の目標として合致。先行した同社は、Ultrabookのカテゴリにおいて、世界最軽量、世界最薄を実現してみせた。

dynabook R631

 Dynabook 商品統括部商品企画部の杉野文則部長は、「 Book(本)のような可搬性を追求し、薄さにもこだわってきた。そして、高性能、堅牢性、信頼性にも力らを注いできた。企業ユーザーからは、壊れにくいという信頼性、壊れた時にも迅速に対応する安心感が評価を得ている。これができるのは、しっかりとしたモノづくりを実現していること、そして顧客接点を重視するDNAがあるからこそ」と自信を見せる。

Dynabook 商品統括部商品企画部の杉野文則部長