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社長と2人で開発 ピーアップがニッチなスマホを作り続ける理由(2022年2月16日)|BIGLOBEニュース

2月16日(水)10時0分 ITmedia Mobile

2021年10月に発売した「Mode1 GRIP」

社長と2人で開発 ピーアップがニッチなスマホを作り続ける理由(2022年2月16日)|BIGLOBEニュース

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 市場規模の大きさから、海外メーカーやスタートアップの新規参入も多いスマートフォンだが、その事業を継続できているところは思いのほか少ない。XiaomiやOPPOのような大手メーカーが定着しているのは、むしろ例外と言っていいかもしれない。そんな中、キャリアショップや併売店の「テルル」を運営するピーアップが開発したMode1シリーズは、着実にラインアップを増やし、販路も徐々に広げている。2015年12月に発売した初代Mode1から丸6年がたった今でも、変わらず端末を投入し続けている。 スタンダードなSIMロックフリーのスマートフォンを投入してきただけでなく、フィーチャーフォンのように折りたためる「Mode1 RETRO」や、横幅が狭く手にフィットする「Mode1 GRIP」といった一風変わった端末を投入しているのも、同社の特徴といえる。価格は端末ごとに異なるが、2万円前後から3万円前後に収まっており、手に取りやすい。こうした価格のスマートフォンの中には、中国のODMが持つベースモデルを使って色や外観など、一部の仕様だけを変えただけのものも多いが、Mode1シリーズは1機種を除き、あくまでピーアップの独自設計で開発しているという。 同じ携帯電話業界にいたピーアップだが、端末の企画・開発と販売ではその役割が大きく異なる。では、なぜ同社はスマートフォンの開発に乗り出したのか。2021年10月に発売した現行モデルのMode1 GRIPの開発経緯とともに、同社がスマートフォンを作り続ける狙いをうかがった。インタビューには、ピーアップの商品開発室 室長の梅澤俊之氏が答えた。●テルルに来店すれば、何かしらのサポートを受けられる—— まずは、テルルなどの販売店を運営するピーアップが、なぜスマートフォンの開発に乗り出したについて、うかがっていきたいと思います。梅澤氏 6、7年前から、携帯電話を含めた生活に密着する商品を作っていこうという話がありました。弊社の代表はライフという言葉でくくっていますが、携帯電話は今やなくてはならない必需品です。では、なぜ携帯電話になったのかというと、時期的にお分かりになるかもしれませんが、当時(2015年)はちょうどMVNOが出てきたタイミングです(MVNO自体は既にあったが、2015年当時は市場が拡大していた)。 一方で、弊社は併売店とキャリアショップの運営をしていて、テルルという基盤がありました。駆け込み寺がない家電の恐ろしさはご理解いただけるのではないかと思いますが、テルルには携帯に関するスペシャリストが集まっています。「こういうふうに使ってください」「こういう料金プランがいいですよ」ということは、併売店の店員が一番長けています。せっかくのプロがいるなら、携帯電話の端末を作ってみようじゃないかということで(プロジェクトが)発足しました。 自社で出している製品なので、テルルに来ていただければ何かしらのサポートやアドバイスは受けられます。今ではなくなりつつある、安心感のある販売ができるであろう。弊社の代表もモノ作りが大好きだったことがあり、開発を始めました。—— といっても、スマートフォンはかなり製品として複雑で、新規参入のメーカーは技術的にも、販売的にも苦戦することが多いと思います。梅澤氏 正直申し上げて、当社も初代は他社と同様、いろいろな形で苦労しました。日本の通信がグローバルではないため(周波数などのこと)、細かな電波の設定でミスをしたことはありました。そんな階段を1段1段上り、7年目を迎えることができています。おかげさまで膨大なデータの蓄積ができ、語弊はありますが、以前よりは簡単に製作ができるようになっています。●実質2人体制で開発、人件費は他メーカーの10分の1以下?—— ODMで開発するということもできると思いますが、そうではないのでしょうか。梅澤氏 5機種あるうちの1機種だけ、ODMに出しています。後はデザインから設計まで、全てこちらで起こしています。今回は、それをユーザーの方にご理解していただきたいということもあり、この変態的な縦横比の端末(Mode1 GRIPのこと)を出しました。これがODMにあるかというと、ありません。基板も一から作らなければなりませんでした。—— その割には、2万2000円と価格も安いですね。低価格にできている理由はどこにあるのでしょうか。梅澤氏 Mode1の開発は社長直轄で、実質的には社長と私の2人でやっています。出荷も私が担当で、修理の受付や営業もやっています。FacebookやTwitterの更新や回答も始めています。おそらく人件費で言えば、他のメーカーの10分の1以下だと思います。代表の給料(役員報酬)を入れるととんでもないことになってしまいますが(笑)。それもあって、究極にコストを落とすことができています。逆に、何をやっていないのかと聞いてもらった方がいいぐらい、全てやっています。 やってみれば時間内にできるもので、開発は趣味で自作のPCを作るのに限りなく近いですね。(CPUの)ARMはすごいので、BOM(部品表)からパーツをチョイスするだけで、あとはひたすらパッチとOSの調整をしているだけです。—— 開発会社は外部ですよね。梅澤氏 中国の工場と一緒にやっています。僕がやっているのは、木の枝をそぎ落とすことで、極力余計なものを入れないようにしています。●あえて既存メーカーとはかぶらない路線で勝負—— Mode1シリーズは、どういったコンセプトの端末なのでしょうか。ラインアップにはMode1 RETROやMode1 GRIPなど、変わり種も多いように見えます。梅澤氏 テルルという販売店があり、さまざまなメーカーのご協力のもと、端末を販売しているため、自社端末とはいえ、他社に迷惑を掛けるわけにはいきません。それもあり、なるべく他社とかぶらず、隙間的な部分はどこかを常に模索しながら出しているというのが正直なところです。ハッとするようなカテゴリーの端末を出しているのは、その一環です。普通の端末なら、大手メーカーの出しているものでいいじゃないですか(笑)。明確な差別化で、お客さまに納得してもらえるラインアップにしています。 通常のラインは初代、Mode1 RS、Mode1 RRという流れできていますが、こちらはレーシングをコンセプトにしています。これに対し、ニッチなラインの1つ目がMode1 RETRO、2機種目がMode1 GRIPになります。この2機種に関しては、モーターサイクルというコンセプトも外した、遊び心のある端末になります。—— レーシングをデザインコンセプトにした通常ラインと、ニッチなライン、どちらの方が反響は大きいですか。梅澤氏 大画面が好きというニーズと、小さい端末が好きというニーズは全く違うので、どちらとは言いづらいですね。—— 「+Style」や家電量販店など、テルル以外でも販売していますが、販路を拡大していくお考えはありますか。梅澤氏 近くの店舗で購入したお客さまも、最終的に何かあったらテルルに駆け込んでくれればいいというのが私の中の構想です。どこで購入されてもユーザーはユーザーなので、最終的にサポートができればいい。ですから、販路が増えるのは問題ないと考えています。●コンパクトだけど普段使いができるサイズ感に—— ニッチではありますが、横幅の狭い端末には「Rakuten Hand」もあり、Mode1 GRIPは一般受けもしそうな気がしました。なぜこのサイズ感の端末を開発しようと思ったのでしょうか。梅澤氏 Mode1 GRIPは、小さいけど小さくない端末です。コンパクト系の端末では、3型のものから4型までのものが他メーカーから出ていますが、一言で言えば普段使いができません。それに対し、この端末は普段使いできることを目指しています。 設計時には厚みも考えました。板状のスマートフォンはケツポケ(お尻のポケット)に入れるのはNGですが、このサイズなら女性のジーンズにも入ってしまいます。危ないのであえて入れてくださいというメッセージは出していませんが、この厚みになったのもねじれ剛性を高めるためです。電源ボタンが上すぎると言われることはありますが、これも下にありすぎると落としやすくなってしまうからです。—— 一方で、ここまで縦長のスマートフォンは、あまりないと思います。特殊なアスペクト比だと、アプリやサイトによっては、表示が崩れてしまうことはないでしょうか。梅澤氏 やはりありますね。こればかりは、各アプリの開発者の考え方次第になってしまいます。Googleの出している統一規格で開発していれば本来、崩れるようなことはないはずですが、少し間違えるというそういう現象が起きてしまいます。特殊なサイズで出しておいて何を言っているんだと言われてしまうかもしれませんが、アプリ側の問題です。携帯電話はただの箱で、信号をそのまま表示するしかありません。 アプリの開発者はメインとしてまずiPhone用のものを作り、次にAndroidのものを作るということが多いのですが、そのときに調整している端末も、大体がソニー、シャープ、サムスンという感じです。その比率で作ってしまうということでしょうね。●最初から2万2000円で出したいという思いがあった—— 冒頭で、MVNOが台頭した時期に合わせて投入したというお話がありましたが、今現在だと、MVNOの勢いにはブレーキがかかっています。その影響は、何かありましたか。梅澤氏 あまりありません。Mode1 GRIPは2万2000円に設定していますが、これは(端末購入補助で)値引きできるギリギリの金額です。うちにはまったく利益がありませんが(笑)、この価格帯の端末は少ないと思います。この端末は、最初から2万2000円で出したいという思いが強くありました。代表からも、「利益があろうがなかろうが2万2000円」と言われています。そこまでのコストで作れるものということで開発をしています。 もう少しお金を使えれば、カメラのCMOSをこれにできたのに……といったようなことはありました。今、CPUや液晶の値段が異常なほど上がっているので、その中で作らなければなりません。—— 端末購入補助を上限まで出せば、無料になります。SIMカードにキャッシュバックをつけているキャリアもありますが、そういったところと一緒に買われていることが多いのでしょうか。梅澤氏 テルルの中には、そういったお客さまもいらっしゃいます。そもそも、ガラケーを使っていた方や、スマホでもインターネットをほとんど使わない方に対して、今はオーバースペックな端末が多すぎます。そういう方には、特に刺さりやすいですね。電話だけしたい、LINEだけでいいという方には、小さい端末の方が便利というのはあると思います。●Mode1 GRIPはライフサイクルが短くなる可能性がある—— 端末ですが、どのぐらいのペースで出していくご予定でしょうか。梅澤氏 大体2年に1回ですね。—— ということは、昨年Mode1 GRIPを出したので、今年はないと考えていいのでしょうか。梅澤氏 CPUは3、4年かけて販売していますが、Mode1 GRIPでは単年度でライフサイクルが終わるものを選んでしまいました。コストを落とす方策が、それしかなかったからです。ですから、Mode1 GRIPはライフサイクルが従来よりも短くなる可能性があります。—— サポート情報を見ていると、比較的アップデートをきちんとやっているようにも見えます。梅澤氏 話が戻りますが、弊社にはテルルというお店があり、サポートは僕自身も受けています。コールセンターのデータも見て、お客さまの声で納得したもの、変えた方が使い勝手がよくなるものに関しては、アップデートを走らせるようにしています。例えば、小さい携帯は盗撮などの犯罪に使われることがあるので、カメラ音は落としたくなかったのですが、音がデカすぎるという声があります。こういった、「そうだよね」という声は、極力反映させようとしています。●コロナの影響は相当出た—— 販売状況はいかがでしょうか。狙い通りの台数が出ていると見ていいのでしょうか。梅澤氏 いっぱい出てくれればいいのですが、台数を抑えても出せるような計算をしています。市場的な要素を見ると、小さい端末はそれほど売れるかどうかが分かりません。Rakuten Miniは売れましたが、あれは例外ですからね。—— 中国で製造しているということですが、コロナ禍の影響はありましたか。梅澤氏 相当出ました。ただ、Mode1 GRIPに関しては、前作のMode 1 RRをリリースする前から案があったものです。力を入れていたので、既にテストはしていたため、中国への渡航がなくてもできた部分があります。—— ということは、ゼロベースだったらできなかったということですね。梅澤氏 怖くて手が出せなかったですね。特殊な液晶を搭載していることもあり、日程が足りなくなっていたと思います。●取材を終えて:独自端末がショップの生き残りにつながるか ピーアップがMode1シリーズを継続的に投入できているのは、テルルという併売店の存在が大きかったようだ。大手メーカーにはあまりない、市場の隙間にフィットする端末を開発していることも、一定数のユーザーから受け入れられている要因といえる。販売店を運営する会社が開発しているだけに、価格設定にもセンシティブなことが分かった。端末購入補助に厳しい制限がつき、ショップには厳しい状況が続いているが、独自端末の販売は生き残り策の一環という意味合いもありそうだ。

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