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猫は何もする気がないけれど、それでいい。ヒトはどうして必死になって働くのか――養老孟司と朝井まかてが語る愛猫の思い出

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養老孟司さんの愛猫まる(Instagram「まるすたぐらむ」より)

猫は何もする気がないけれど、それでいい。ヒトはどうして必死になって働くのか――養老孟司と朝井まかてが語る愛猫の思い出

2020年12月に3日ちがいで飼い猫を見送った養老孟司さんと朝井まかてさん。“まる”と“マイケル”それぞれとの思い出から、無理に喪失感を埋めようとしない今のお気持ちまで、しみじみと語っていただきました。【写真】朝井まかてさんの愛猫「マイケル」仕事中にパソコンのキーボードに乗ってくるなど、猫を飼っていれば誰もが経験するであろう「あるある」話が出たと思えば、解剖学者ならではの猫を含む動物の行動の考察にまで話題は広がり、ほほえみと発見に満ちた対談になっています。新著『ヒトの壁』でも読者の共感を呼んだ猫との愛おしい日々……。 ***

まるとマイケル

朝井 この対談のお話をいただいてから、先生のところのまるちゃんとうちのマイケルが亡くなったのがわずか3日ちがいと知って驚きました。生前のまるちゃんのお話を聞かせていただけますか。養老 まるは雄のスコティッシュで、娘が奈良のブリーダーからもらってきました。家内はネコがあんまり得意じゃなくて、たまたま旅行で留守にしていた間に、娘がうちに持ってきちゃったんです。家内との折り合いが心配だったけれど、家内のほうが意外に気に入って。その理由が、口がきれいだったから。ネコって大体、泥棒するけれど、まるは食卓に上げても全然食べないんです。まるの前に飼っていたネコは、お手伝いさんがカニサラダを作って後ろにそのお皿を置いて、流しを使ってから振り向いたらカニだけきれいにない、というようなことがよくあったから(笑)。朝井 わかります、その状況(笑)。養老 前のネコは、引っ越しをしたとき一晩は警戒するんだけど、その次の日には走り回ってネズミを捕って家の中に置いてました。うちは山の中なので、ヘビもモグラもリスもいて捕るんですね。捕った鳥は食べちゃうから羽根だけ残ってて。それに比べると、まるは何もしない、ひたすら寝てるだけ。よく考えてみたら、ずっと日本のネコを飼っていて、洋猫を飼ったのはまるが初めてでした。朝井 前は和猫でいらしたんですか。養老 そうです。まるは何にもしないネコだから事件もなしで、気が付いたら、十何年も一緒に過ごしていました。朝井 まるちゃんは、夜はどこで寝ていたんですか。養老 その都度勝手に自分で寝る所を決めて。僕の寝床に入ってくるということも、しないんですよ。とにかく毛が密なせいか、あんまり寒がらないネコでした。朝井 『ネコメンタリー』を拝見していたので、肢を四方にどひゃあと投げ出した寝方も印象に残っています。養老 アザラシだかオットセイみたいでね、食肉目なので、大きくとらえるとネコと同じ仲間なんです。だからアザラシのようになっても不思議はない。ほとんど上からつぶした状態になって寝ていました。朝井さんのところはどうでしたか。朝井 うちのマイケルも一緒に寝るということはなかったのですが、私が寝床に入ったら自分も2階にどすどすと上がってきて、私の顔を枕にして寝ていました。夏は暑くて。亡くなったときは24歳でした。養老 それは随分と長生きでしたね。朝井 そうですね。しっぽが三つに分かれていてもおかしくないぐらい。いつもみんなに、なんで、そんな工夫のない名前付けたん? と不思議がられるんですけど、普通の名前を付けたいと思って、まんまとスベリました(笑)。女の子なんですが、そういう名前を付けたからか、男の子みたいな性格のネコで。それから、自分の要求を通すまでは決して諦めないネコでしたね。絶対に諦めない。養老 ネコってそうですよね。ものすごく頑固でしょう。朝井 見事に後ろを見せない、引かないというところがあって、そういうところが好きでした。ただ、お医者さまがとても苦手だったんです。養老 そうですか。朝井 子ネコの頃はワクチンを打ちに行くと待合室で失禁してしまう。診察台に置いた途端に暴れて、お医者さまの手をバンバンたたく。なぜか、爪で引っかくという攻撃は一度もしたことがなく、爪が武器になることを知らなかったのかしらん。とにかく攻撃はパンチ一本槍。家に大型犬が遊びに来たときも、何か気に入らないことがあったんでしょう、自分の体より大きな顔にバシッとお見舞いして。飼い主さんにもワンちゃんにも申し訳なかったですが、皆、きょとんとして後は大笑い。今もあの雄姿を思い出します。そういう付き合いがいのある、手応えのあるネコでしたね。養老 仕事の邪魔はしませんでしたか。朝井 しました。本の上、資料の上に乗って。私が執筆しているときは、ずっと書斎のソアァにいて、庭に出たくなったら出せ、おなかが空いたら何かちょうだい、いろんな要求をするんですけど、明け方になっても私が仕事をしている限り、そこにいるんです。養老 でしょう(笑)。パソコンのキーボードの上にも乗るでしょう。朝井飛び乗ってきましたね。養老 ttttt……って打ってくれる。朝井 うちはvvvvv……(笑)。これで何か一文でも進めてくれればいいのに、と思うんだけど。養老 まるがキーボードに乗ってきたら抱き上げるんだけど、それだけじゃなくて何やかや、やっぱり構うようにしていました。仕事をやりながら構っても、いないほうが仕事はかどるのになと思うことはありませんでした。あと、マウスを持つ右手へ上がって寝るんです。朝井 あれは(鼠の)マウスだと知ってるのかも(笑)。机に上がると、とにかく私の視界の中央にドカッと座るんです。だからキーボードをよけて、ひたすら、動いてくれるのを待っていました。その間、執筆は中断です。少しは休憩しなさいよって、言われてるような気もして。

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最終更新:Book Bang