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【西田宗千佳のRandomTracking】アップルが「オリジナル制作」加速する狙い。Apple TV+などの発表会で見えたもの - AV Watch

AV Watch的に大きな注目なのは、映像系サービスが「Apple TV」としてリニューアルされ、オリジナルコンテンツを軸にしたサブスクリプションサービスである「Apple TV+」がスタートすることだろう。

Apple TV+を発表するティム・クックCEO

これまで、Apple TVといえば同社のセットトップボックス(STB)を指す名称だったが、これからはそうとは限らないものになる。

これにはもちろん背景がある。

日本では展開されていないものの、アメリカなどでは、iOS向けのビルドインアプリケーションとして「TV」というものがあった。これは、テレビの番組表や各種番組の情報をまとめたアプリだった。

【西田宗千佳のRandomTracking】アップルが「オリジナル制作」加速する狙い。Apple TV+などの発表会で見えたもの - AV Watch

今回発表された「Apple TV」アプリは、この「TV」アプリとこれまで映像視聴およびストアとして使っていた「Movie」や「iTunes Store」アプリをうまく統合し、UI/UXを大幅に刷新したのが「Apple TVアプリ」、ということができる。

新「Apple TVアプリ」。テレビ系からムービー系までの「映像視聴」系機能を統合し、UIを再整理したもの。Apple TV+もこの上で視聴するサービスになる

アプリが複数に分かれていて使い勝手が良くなかったこと、情報の一覧性が悪かったことなどが、アップルの映像系アプリの問題だった。後述するように、そこにさらにサービスとしての付加価値を持たせるのであれば、「統合と再整理」は必須だ。

今回の変化として、対応プラットフォームについての幅が広がった点も大きい。これまでアップルの映像関連事業は、主にiOSアーキテクチャを軸にしていた。iPhone・iPadはもちろん、iOSベースであるtvOSを使ったハードとしてのApple TVが前提だったためだ。もちろんPCやMacからも購入した動画の視聴は行なえたが、メンテナンスペースはゆっくりで、iOSが軸である、という印象が強かったのは事実だろう。

今回のApple TVアプリでは、同じものがMacにも提供される。アップルは現在、iOSとmacOSで同じアプリを動かす仕組みを開発中だ。2019年後半からプレビューが開始され、最新のmacOSである「Mojave」にもこの仕組みを使ったアプリがいくつかある。おそらくだが、Apple TVアプリについても、この仕組みを使って「アップル製品全体への提供」が行なわれているのではないだろうか。

Apple TVアプリはMacにも対応。Mac上での動画視聴体験が改善する

また、テレビ向けのApple TVアプリは、Apple TVだけでなく「スマートテレビ」や「他社STB」にも提供される。具体的には、サムスン・LG・ソニー・VIZIOのスマートテレビにアプリが提供され、さらにRoku・AmazonのFire TVにもアプリ提供が行なわれる。これは、1月のCESでの「スマートテレビへのアップルサービスの開放」の流れを受けての方針、と考えていいだろう。CESでは、iTunesでの「テレビ内からの動画購入」「単独での動画視聴」に対応するのはサムスンだけ、という説明だったが、新たにアップルがアプリを提供する姿勢になった結果、対応プラットフォームが大幅に拡大した……ということなのだろう。

サムスン・LG・ソニー・VIZIOのスマートテレビにApple TVアプリが。サムスンは今春、それ以外の3社は年内に提供の予定Apple TV以外のSTBとして、アメリカでメジャーな「Roku」とAmazonの「Fire TV」にも対応する

この方針は、「映像作品を見る」という体験において、アップルが直接的に提供していない「大画面への体験」を補完するために重要なものだ。Apple TVは良いSTBだが、それだけでは広くテレビ市場をカバーすることはできない。本気で映像サービスビジネスを拡大するには、複数のデバイスに対応することが必須の状況だ。