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NECネッツエスアイ、ローカル5Gに本腰--基地局ソフトを開発 - ZDNet Japan

 NECネッツエスアイは2月28日、自営型の第5世代移動体通信システム(ローカル5G)の事業を本格展開すると表明した。「地域ネットワーク」と「インビルネットワーク」をローカル5Gの注力領域に位置付けるほか、“Beyond5G”(5Gより先の世代の通信システム)などの次世代通信への対応にも取り組む考えを示した。2023年度にローカル5G事業で100億円の売上高を目指す。

 この日会見した執行役員の中川貴之氏は、「ローカル5Gは重要なネットワークとして2019年から取り組んでいる。将来のマルチパーパス(多目的)エリアネットワーク事業でもローカル5Gが主軸になると考え、ローカル5Gを中心にプライベートネットワークの市場リーダーとしての役割を果たしたい」との考えを示した。

 また、ローカル5Gの普及は簡単であり、コストが低く、常に進化することがポイントだとし、「当社が得意とする地域ネットワークとインビルネットワーク領域でデジタルトランスフォーメーション(DX)を提供し、企業の経営課題やさまざまな地域社会の課題を解決する」などと述べた。

ローカル5Gの事業戦略

 NECネッツエスアイは、通信システム工事会社として1953年に設立されたNECグループの1社。2021年3月期の売上高は3391億円で、従業員数は7537人。デジタル化による価値創造や課題解決を実現する事業ブランドとして「Symphonict(シンフォニクト)」を展開し、「まちづくりDX」と「働き方DX」を重点事業領域に据えている。

 ローカル5Gは、既に実証実験を進め、広島県では水中ドローンでの牡蠣養殖の生育管理、徳島県では遠隔医療や河川監視、富山県では山間部作業の生産性向上、山梨県では登山者向けの観光情報システム、東京都では新たなワークスタイル創出において活用する。三井不動産や大手製造、ケーブルテレビ事業者らと社会課題や経営課題の解決にローカル5Gを活用しているという。

ソリューションの展開内容

 中川氏は、「これまで取り組んできた技術的な実証実験のノウハウに、免許申請などを含めて企業の負担が少なく導入できるサービスを組み合わせて、ローカル5Gをフルサポートする。2022年度から戦略的ソリューションとして提供していく」と語った。

 ローカル5G事業で注力領域に位置付ける「地域ネットワーク」では、「まちづくりDX」の取り組みを掲げ、NECマグナスコミュニケーションズの一体型基地局装置を活用。1台で広範囲をカバーできる特徴により複数の事業者が地域共通のコアネットワークをで共有するようなモデルとして実現し、ローカル5Gを容易に導入できるようにする。まずケーブルテレビ事業者との連携で事業を拡大させるという。「光ケーブルを保有するケーブルテレビ事業者向けに、集合住宅向けの高速インターネットサービスや4K映像を使用した河川・道路などのインフラ監視サービスなどに活用することを想定」(デジタルタウン推進本部の有川洋平氏)という。

 もう1つの「インビルネットワーク」は、「働き方DX」の取り組みとして、韓国のHFRと国内独占販売契約を結び、同社製品を活用したWi-Fi並みのコストでローカル5G環境を構築する提案を行う。ここでは、アンテナ分散技術(DAS= Distributed Antenna System)を活用し、オフィスビルや病院など壁や床で仕切られた空間が多い屋内施設でも、効率的にローカル5G環境を構築できるようにする。働き方改革などの各種DXサービスと組み合わせて、スマートビルを実現するという。

 HFRは、6月に高出力分離型基地局のPRUを発売するほか、屋内分離型基地局のAAUおよびORAN-MUXを8月にリリースする予定。NECネッツエスアイは、ビル設備の統合管理やサービスの稼働管理などのデベロッパー向けサービス、メンテナンス作業管理などの管理会社向けサービス、働き方改革サービスなどのテナント向けサービスなど、各種のスマートビルソリューションと、ローカル5Gを組み合わせたパッケージ提案を進めていく。

 さらにBeyond5Gへの対応として、東京大学発のスタートアップ企業のFLARE SYSTEMSと共同開発したソフトウェア基地局「FW-L5G-1」を活用する。これは、ローカル5Gに関わるコアや制御ユニット、分散ユニット、無線ユニットなどの機能全てをソフトウェアで提供し、汎用サーバーで基地局の機能を実現する。設計の柔軟性があり、これを生かしてBeyond5Gに向けた実証を推進する。FW-L5G-1は、東京大学産学協創ベンチャー創出プログラムに基づきFLARE SYSTEMSと共同開発したという。

開発したローカル5G基地局ソフトウェア

 汎用サーバーを使うことで専用機器を使った基地局よりもコストを抑えられ、電源設備がない場所でも市販のポータブル電源を使って長時間稼働できるという。また、「準同期TDD」にいち早く対応し、用途に応じてユーザーからの通信とユーザーへの通信容量を自由に変更できるなど、カスタマイズ性にも優れているという。有川氏は、「FLARE SYSTEMSが持つ次世代ネットワークの企画力や開発力と、NECネッツエスアイのシステム構築の対応力により、ローカル5Gの先を見据えて最先端領域にも取り組んでいく」と述べた。

NECネッツエスアイ 執行役員の中川貴之氏(左)とデジタルタウン推進本部の有川洋平氏