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大転換期における「よい人生」とは何なのか?大ヒット本の続編が示唆する100年時代の人生論|『ライフシフト2』レビュー

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『ライフシフト2』東洋経済新報社 アンドリュー・スコット/リンダ・グラットン/著

大転換期における「よい人生」とは何なのか?大ヒット本の続編が示唆する100年時代の人生論|『ライフシフト2』レビュー

年末に、東洋経済新報社から『ライフシフト』の続編が出ると聞いてから、それがいつ出るのか、いつ読めるのかと、ソワソワしはじめました。年末は、各社の勝負本が押し寄せてきますが、続編が出ると決まった時点で、私が2021年度の年末に紹介するのは、この本しかないと心に決めていました。まず、何より楽しみだったのはタイトルです。原題は「The New Long Life」でしたが、『ライフシフト2』というド真ん中ストレートでした。40万部発行の『ライフシフト』の名前ほど、目立つ広告はありません。東洋経済新報社は、硬派なビジネス書が多く、値の張る本も多いのですが、邦題の付け方がとてもうまい出版社なので、『SHOE DOG』のような装丁はもちろん、タイトルを見るのが楽しみな出版社です。たとえば、スコット・ギャロウェイの「The Four: The Hidden DNA of Amazon, Apple, Facebook, and Google」は、『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』になりました。ビジネスパーソンがよく使う、ビッグテック企業の「GAFA」の名付け親にもなっています。ただし、爆発的なヒットを生み出した「GAFA」のようなオリジナル路線ではなくて、積み上げ路線で来たら、大体、本の売り上げは、第一作には及びません。さてどうなるかと『ライフシフト2』を発売日に店頭にならべてみると、ならべた端から手に取られていき、いい意味で予想を裏切られました。肝心の中身はどうか。『ライフシフト』では、ジャック、ジミー、ジェーンと三世代にわたる架空の登場人物を通して、教育、仕事、引退という3ステージの人生モデルが崩壊していく様を描いています。続く本作では、日本の金沢市に暮らす20代半ばのカップル・ヒロキとマドカ、インドのムンバイでフリーランスとして働く20代後半の女性ラディカ、ロンドン在住の30歳のシングルマザー・エステル、アメリカのテキサス州に住む40歳のトラック運転手・トム、オーストラリアのシドニーで暮らす55歳の会計士・イン、イギリスのバーミンガムに住む71歳の元エンジニア・クライブという、どこにでもいそうな架空の登場人物を通して、これから先に訪れる変化を、世界規模で描いています。本作でも『ライフシフト』同様、70年の人生を前提とした3ステージの考え方が、人生100年時代を生きなければならない私たちの人生を苦境においやっていることをエビデンスとともに例証しています。テクノロジーの進化と人間の長寿化により、人生の分岐点が大きく変わりました。しかしながら、私たちの教育や仕事、そして人生はそれとは連動していません。その歪みが世界各地で、同時多発的に私たちを苦境においやっていることを、それぞれの人生から描き出しています。本書が読者に問いかけるのは、「よい人生」とは何か、という本質的な問いです。例えば、著者はチベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世が、人間について驚かされるのはどの点かという質問に対して答えた言葉を紹介しています。「人は金を稼ぐために健康を犠牲にし、健康を取り戻すために金を犠牲にする。また、未来を心配しすぎるあまり、現在を楽しめない。その結果、現在を生きることも、未来を生きることもできなくなっている。そして、自分の命が永遠に続くかのように日々を漫然と生き、真の意味で生きることがないまま死んでいく。」携帯電話の液晶画面やPCを立ち上げて、流れてくる情報を眺めているだけで、1日は簡単に消費することができます。私たちが私たちの人生を消費せず、本当の意味で、人生を生きるためには一体何が必要なのか。本書が教えてくれるのは、人生を100年という時間で見たら、いま私たちが歩いている道が70年で途切れてしまうという現実でした。「よい人生」を生き切るための必読書です。

この記事を書いた人

三砂慶明「読書室」主宰本を紹介する「読書室」を主宰。書店員として著者、編集者、書店員、読者がまじわる選書フェア「読書の学校」を企画。2021年に休刊した雑誌サンガジャパンで読書案内を連載。NHK文化センターにて、「人生を変える極上のブックガイド」を担当。こよなく本を愛しています。

最終更新:本がすき。