色々な機器に電力を供給できるUSB充電器は便利ですが、サイズが小さいと出力も小さく、充電時間が長くて使い物にならない……というのはよくある話でした。
しかし、これはずいぶん昔の話。今ではGaNのおかげもあって、初期のころなら5W、ちょっと前でも10Wくらいがやっとというサイズでも、30W出力が可能な製品が登場しています。
とくにAnker Nano IIシリーズは最近話題になったので、覚えている人も多いのではないでしょうか。
30W、45W、65Wの3つのモデルがあり、30Wモデルは38×32×30mm(プラグ含まず)と非常に小さいながらも、MacBook Airの充電まで可能。「とりあえずカバンにぶち込んでおけば困らない」といっていいでしょう。
また、45Wモデルはプラグの折りたたみが可能ながらも35×38×41mm、65Wモデルでも44×42×36mmとコンパクトなので、幅広く使えるノートPC用の電源として考えているのであれば、このどちらかを選ぶと満足できるかと思います。
正直なところ、今、小型のUSB充電器を買うなら、この3モデルのどれかを選んでおけば間違いないというくらいですが、個人的に不満な点もあります。それは、端子がType-Cのみだということ。
今時の機器なら大抵Type-Cなので問題ないのですが、ちょっと前のモバイルバッテリーを使っているとか、今でも古い機器を使っている人にとって、Type-Cのみというのは少々不満があります。
Type-Aへの変換アダプターを買えと言われればその通りなんですが、せっかくの小さい充電器。できれば荷物は増やしたくありません。何より変換アダプターって、必要な時に限って見当たらないことが多いのも厄介です(個人差があります)。
ということで、ノートPCまでは充電できないけれど、タブレットくらいまでなら充電できる小型の充電器がないかなと漁っていたところ、イイ感じのものをAmazonマケプレで見つけました。GaNではなさそうですが、コンパクトながらType-CとType-Aの両対応。出力は20Wと控えめとはいえ、PD3.0とQC2.0/3.0に対応しているので、急速充電も可能です。
製品名は不明。出荷元はAmazonですが販売元は海外ショップという、それなりに気を付けて買う必要がある部類です。
2個セット PD 充電器 20W (Amazon.co.jp)
まずは外観からチェック
ちょいちょいセールで値下がりしてるみたいですが、2個入りを2799円で購入。1個当たり1400円くらいなので、20Wという出力を考えるとそれほど安いわけではありません。しかし、28×28×30mm(プラグ含まず)というサイズは純粋にかなり小型の部類となるので、サイズ優先で考えているなら、十分納得できます。
ということで、まずは外観からチェックしていきましょう。
パッケージは専用のもので、裏面には日本語表記アリ。思っていたよりもかなりまともで驚きました。
表には「PD充電器」と書かれており、これが製品名っぽい感じがあります。写真はあるものの肝心のコネクター部がまったく写っておらず、「Type-C Charger」としか書かれていないため、Type-Aがあるのかは分かりません。
下の方には、20W、PD3.0(QC3.0/AFC/FCP)といった文字があり、仕様が分かりやすくなっていました。SAFEの内容までは分かりませんが。
裏には日本語で詳細が書かれており、誤字はあるもののかなり親切です。一番上に「Type-C Charger PD20W急速充電器」とあるので、これが本当の製品名かなと思ったんですが、ちゃんと下の方に商品名がありました。
「AC充電器」
うん。なるほど。そうですね。その通りだと思います。
ちなみに品番は「A1901」というもので、なんだかちょっとアップル製品っぽさがあります。
重要な出力に関しては、5V 3A、9V 2.22A、12V 1.67Aと書かれており、9Vと12Vでは20W出力できるようになっているのが確認できます。しかし、パッケージ表の写真も含め、Type-Aに関しては何ひとつ記載がありません。最初にパッケージは専用と書きましたが、複数モデルで共通になってる可能性が高そうです。
表に書かれていたSAFEですが、裏の説明によれば、「多重保護機能を搭載し、いつも過電圧、過電流、過熱、ショートなど発生した場合、自動的に充電中止します」とのこと。少し怪しい部分はありますが、安全機能があるというのは伝わります。
ちなみに、中身に説明書などはナシ。説明書がいるような製品ではないので問題ないですが、ちょっと寂しいですね。
続いて本体を見てみましょう。
大きく20Wと書かれている、とても分かりやすいデザインを採用。サイズ比較用にSDカードを並べてみましたが、やはりかなり小さいです。パッケージには全く記載のなかったType-Aもしっかり装備されており、とりあえずひと安心です。
プラグの面には細かな仕様が書かれているので、こちらもチェックしましょう。
ここにはType-Cの出力、Type-Aの出力の両方が書かれており、この時点でパッケージよりも詳しいです。
さらに、Type-CとType-Aの同時出力時は、5V 3Aの15Wになるということも書かれていました。
USBテスター「CT-2」を使い、PD3.0/QC2.0/QC3.0対応を確認する
出力を確認するといっても、「スマートフォンの充電がいつもより早い気がします!」といった情報量ゼロな感想では意味がありません。とはいえ、個人で出来る範囲は限られていますので、大きく3つほど確認することにしました。
1つ目は、対応する急速充電機能の確認。具体的には、PD3.0やQC2.0/3.0に対応すると書かれていますが、これが本当なのかを調べます。
今回はUSBテスターの「CT-2」を使用。より高機能で新しい「CT-3」が登場していますが、急速充電機能の確認や電圧、電流を見るぶんにはCT-2でも十分な機能があります。
このUSBテスターのいいところは、USB PDの「PDO(Power Data Object)」を読み取れること。USB PDは一方的に電圧を変更するのではなく、充電器と機器の双方が対応している電圧・電流を確認し、最適なものを選ぶようになっています。つまり、このデータが読み取れれば、充電器が対応する電圧・電流が分かるわけです。
ということで、早速チェックしてみた結果です。
PDのチェックはType-Cに接続して「Power Delivery」、QCのチェックはType-Aに接続して「Auto Enumerate」で行っています。結果は見ての通りで、PD3.0(ただし、PPSには非対応)に対応し、出力も仕様通り。QC2.0も仕様通り5V、9V、12Vに対応しています(5Vは標準となるためか、画面上の表示としては省略されています)。また、対応と書かれていたものの詳細のなかったQC3.0は、3.6~12.0Vだということが分かりました。
ただし、QC3.0についてはちょっとだけ間違いがあります。CT-2のトリガー機能を使って、本当に電圧が出るのかチェックしてみたところ、なぜか12.20Vまで出力が可能でした。
間違いというのは言い過ぎで、ちょっとだけおトクという方がいいかもしれません。
なお、Type-Cで「Auto Enumerate」を実行してもQCは検出できませんし、Type-Aで「Power Delivery」を実行しても、PDOが読み取れずにPDとして認識できないことは確認しています。
PD3.0を使うならType-C、QC2.0/3.0を使うならType-Aと明確に分かれているのは、分かりやすくていいですね。
電子負荷「DL24」を使って実出力チェック
2つ目は、仕様通りの出力があるのかの確認です。9V 2.22Aとあるなら、ちゃんと電圧が9Vあって、電流も2.22Aまで引っ張れるかどうかを調べます。
今回は、電子負荷として「DL24」を使用。任意の電流値、抵抗値、電力値、電圧値で負荷を設定できるのが便利です。
CT-2にはトリガー機能があるので、充電器の出力を任意の電圧へと切り替えられます。これに加えてDL24の電流値による負荷設定を行うことで、どこまで電流が引っ張れるのかをチェックできるわけです。
ということで、Type-CはPD3.0、Type-AはQC2.0を使い、5V/9V/12Vの各電圧でテスト。電流は0.1A刻みで増やしていき、充電器の保護機能で出力が止まるまで試しました。なお、QC3.0で細かく電圧変更するのが面倒なので、Type-AのテストはQC2.0のみです。
数値は出力可能な値で、ここからさらに0.1A増やすと出力が止まります。ある意味、SAFE機能のテストも兼ねています。カッコ内は製品仕様の電流値。どの出力でも仕様の値をしっかりと上回っており、ちゃんと出力可能だというのが確認できました。
なお、いくら出力ができても、電圧や電流がふらついていれば安定しません。ということでCT-2とPCを接続し、電圧と電流の変化を見張ってみたのですが、これがビックリするほど揺らぎません。一定の電流を引っ張っているので、電源が不安定になるなら電圧が大きく揺れるはずなんですが、どの電圧でもそんな素振りはありませんでした。
一例として、不安定になりやすいであろう、仕様上の出力が最も高いPD3.0の12V 1.67A時を見たときのものがこちら。
データは1秒ごとで、約1分間の出力を見たものです。急に電圧が落ちるとか、そういった怪しい挙動はありませんでした。
続いて、スイッチング電源にありがちなノイズがどのくらい出ているかもチェックしてみましょう。平均すれば安定しているように見えても、ノイズがひどい可能性もあるからです。ということで、DSO138という簡易オシロスコープを使って確認したのがこちら。なお、PD3.0の12V 1.67A時というのは変わりません。
ノイズ部分だけを拡大しているので大きく見えるかもしれませんが、電圧の変動幅となるVppは68mV。つまり、出力12Vに対して変動幅が0.068Vしかないわけで、かなりノイズが小さいというのがわかります。想像以上に優秀でした。
出力の数値は問題なかったのですが、チェック中、どの電圧でも1Aを超えるあたりからジーっというコイル鳴きのような音が聞こえることに気が付きました。といっても、耳を近づけなければ分からない程度の小さい音で、スイッチング電源であれば多かれ少なかれあることなので、そこまで気にする必要はないでしょう。
ただし、5V出力だけは少々違います。1Aを超えてから電流値が増えるほどにジーっという音が大きくなり、さらにキーンという高い音まで加わります。2Aあたりになると騒音のピークで、結構耳障りに。しかし、2Aを超えると再び音は小さくなっていき、3Aだとあまり気にならなくなりました。
出力が不安定になるといった実害はないですが、少々気になりますね。
Type-C、Type-A同時出力は何をやっても5Vに
最後3つ目が、Type-CとType-Aの同時出力。同時に使う場合はPD3.0もQC2.0/3.0も関係なく、5V固定になるとのことなので、本当にそんな動作をするのか確認します。
まずはType-CにCT-2、Type-AにUSB電力計を装着し、どちらも5Vが出力していることを確認。ここでCT-2のトリガー機能を使い、電圧を変更してみようとしたのですが……そもそも、PDとして認識されませんでした。
続いて、Type-CにUSB電力計、Type-AにCT-2を装着し、CT-2のトリガー機能でQC2.0の電圧変更を試してみたところ、設定はできても実際の電圧は5Vから変化しませんでした。
ちなみに、先にCT-2で電圧を変更している状態で別のポートにUSB電力計を接続しても、強制的に5V出力へと変更されました。
同時利用時は5Vのみになるのは間違いないですね。
どうせなら、Type-CとType-Aで独立していて欲しいと思わなくもないですが、総出力が20Wしかありませんし、できたところでほとんど恩恵はなさそう。そう考えれば、妥当ではあります。
なお、Type-CとType-Aはかなり近く、ちょっと太めのコネクターを採用したケーブルを接続すると、ギチギチになります。物理的にも厳しいので、片方だけで使うことをおすすめします。
仕様通りに使える意外とちゃんとした製品でした
小型の充電器は余裕がなく、無茶な作りになっているものも多いですが、調べてみると、意外とちゃんとしてることが分かりました。数百円で売っている充電器もある中、2個で2799円とそれなりのお値段(でも安い)ということもあってか、思っていた以上にまともです。
といっても、「製品に書かれている仕様に間違いがない」という意味での「まとも」。製品として安全に使えるかは別問題なので、怖い人はちゃんとした名のあるメーカーの製品を使いましょう。少なくとも、5万円とか10万円とかする機器の充電に使うのであれば、そちらの方が安心できますから。
2個セット PD 充電器 20W (Amazon.co.jp)