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Dynabookを統括するシャープのICT事業はどう進化するのか?そして補聴器事業に新規参入する狙いとは

3年目の節目を迎えるシャープ傘下でのDynabook

 先にも触れたように、PC事業は、2018年10月に、東芝のPC事業を手掛けていた東芝クライアントソリューションの発行済株式80.1%をシャープが取得。2019年1月に、東芝クライアントソリューションの社名をDynabookに変更した。2020年8月には完全子会社化している。シャープ傘下で事業を再スタートして、ちょうど3年目の節目を迎えるところだ。

dynabook V83

 一方、シャープのPC事業は、1980年代前半に、NEC、富士通とともに、8ビットパソコン御三家の一角を担い、MZシリーズやX1シリーズなどが人気を博していた時期もあったが、2009年に発売した「Mebius PC-NJ70A」を最後にPC市場から撤退。その系譜は途絶えている。つまり、いまのシャープのPC事業には、シャープからの流れはなく、東芝のPC事業の流れを引いている。

 津末氏は、「Dynabookは、国内事業が約6割であり、海外では欧米中心に事業が成長している。高機能モデルから、Chromebookによる普及モデルまで幅広いレンジで展開しているが、その中心はBtoBである。MIL規格に対応するなど、堅牢で、丈夫で、安心して、オフィスなどで利用してもらえるPCづくりを目指しており、Dynabookが培ってきたノートパソコンの技術をベースに展開しているのが特徴である」とする。

津末氏

 シャープでは、2016年8月に、鴻海グループの傘下に入って以降、増収増益に向けた体質づくりを最重視している。Dynabookも、その姿勢は変わらない。

 「コロナ禍で市場環境が変化したり、半導体やパネルをはじめとする部品調達に遅れが出る中でも、Dynabookは黒字を確保している」と前置きし、「部品が足らずに、製品が作れず、納められないとい場合もある。だが、その際には、お客様のもとに出向き、もう一度、別の製品をオファーして、商談を再度獲得するといったこともやっている。増収増益を達成するには、それだけの覚悟が必要だ」と語る。最新四半期となる2021年度第1四半期(2021年4~6月)も、PC事業は引き続き黒字化を達成した。

 注目を集めているのは、2021年3月から発売した同社初のChromebookである。ブランドはdynabookだが、製品化にはシャープの通信事業本部が深く関与した製品であり、シャープとDynabookの共同開発というスタンスをとった。シャープにとっては、事実上、10年ぶりのPC市場再参入を果たした製品と位置づけられている。

LTE内蔵「Dynabook Chromebook C1」

 「教育市場では、Chromebookに対する高いニーズがあるものの、競合他社が積極的な提案を行なっている。当初の想定に比べると厳しい状況にはあるが、多くの引き合いがある」とする。当初はLTE対応モデルを投入。7月にはWi-Fi専用モデルを追加。今後も品揃えを強化していくことになりそうだ。

 一方、2021年1月には、AIoTクラウドをDynabookの100%子会社に再編した。

 AIoTクラウドは、2019年8月にシャープの100%子会社として設立。同社が展開するAIoT家電のクラウドプラットフォームを提供したり、機器メーカーやサービス企業同士が、生活データの連携を行なえる「AIoTプラットフォーム」の開発、運営を行なうほか、国内の自社データセンターによる法人向けクラウドソリューションサービスを提供している。

 「Dynabookが得意とするモノづくりの強みと、AIoTクラウドが持つAIやクラウド、サーバーを活用したソリューション提案力を組み合わせることで、両社のいいところ取りを実現できる。Dynabookが顧客を訪問する際に、AIoTクラウドが同行して提案を行なうことで、Windowsパソコンの販売だけでなく、困りごとや課題解決などに直結するソリューションを組み合わせた商談を行なうことができ、これまでにない商談獲得の成果があがりつつある」とする。

 AIoTクラウドには、200人強の社員が在籍するが、そのうち、約9割がシャープの白物家電のネット接続を行なうインフラなどを担当してきた。「これまでは、シャープの社内を対象にビジネスを行なうことが多かったAIoTクラウドが、今後は、新たな技術を外に向けて販売していくことになる」とする。

 Dynabookでは、新たな働き方の可視化ソリューション「Job Canvas」や、8K映像編集PCシステム、手のひらサイズのモバイルエッジコンピューティング「dynaEdgeシリーズ」、オールインワンクラウドサービスを活用した「dynacloud」のほか、AIoTクラウドが持つ車両やドライバー、荷物の状況をリアルタイムに把握する車載ソリューション「LINC Biz mobility」などのソリューション事業の拡大に取り組む姿勢をみせる。

 「私自身、Dynabookの本社がある東京・豊洲に席があり、Dynabookの覚道清文社長とは、常に情報交換を行なっている。ハードウェアの共通化、ソフトウェア連携、ソリューションの強化などを通じて、さらに事業を成長させたい」とする。

 シャープ傘下に入って、3年目の節目を迎えるDynabookは、2021年度中には、上場が予定されている。

 2021年8月に行なわれた決算発表の席上でも、シャープの野村勝明社長兼COOは、「2021年度中のDynabookの上場計画については変更がない」と改めて強調した。

 津末専務執行役員は、「Dynabookが上場すれば、独立性が高まり、ビジネスの柔軟性やスピード感が高まることになる」と期待する。

 Dynabookにとっては、今年は、次の成長に向けた大きな節目を迎えていることは明らかだ。

シャープの事業体制