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Engadget Logo エンガジェット日本版 進化したiPhone 13のカメラ 誰でも気軽に最新技術が使えるのが魅力(本田雅一)

iPhone 11以降、独自SoCの開発と共に積極的なカメラ機能の改良を進めてきたApple。今年のiPhone 13は昨年と同じくデュアルカメラながら、斜めに配置されたレンズ構成で見た目が変化している。しかし変わったのは見た目だけではなく、その画質や機能は大きく進化していた。

まだ製品が到着してさほど時間は経過していないが、作例を紹介しつつ、評価のポイントをまとめていくことにしよう。

レンズ配置が斜めになった理由

iPhone 13(miniを含む)かiPhone 13 Pro(Maxを含む)か、どちらを購入するか悩んでいる方もいるかもしれない。両者の違いは、SoCであるA15 Bionicに内蔵されるGPUのパフォーマンス(13の方が25%低い)の違いと、メモリ搭載量がそれぞれ4GBと6GBであること、背面のガラス処理がマットかグロスか、フレーム素材がアルミかステンレスか、LiDARの有無、前回のコラムにあったように最新の省電力ディスプレイを採用しているかどうかなど、部品選定(とそれに伴うコスト)の違いが大きい。

……が、商品を選ぶ上ではカラーリングのほか、内蔵カメラの違いが大きいのではないだろうか。画面サイズも種類があるとはいうものの、iPhone 12シリーズの売り上げでいえば、miniとMaxは他に比べるとかなり少ない。それ以外の2機種はいずれも同じサイズのディスプレイと筐体なので、最新版のiPhoneといえばほとんどの消費者が6.1インチを選んでいるわけだ。今年はバッテリー持ちがさらに良くなったため、miniの構成比率が高まるかもしれないが、そのぶんMaxの構成比率は下がるのではないだろうか。

特に昨年、iPhone 12 Pro Maxを選んだ人がもっとも気にしていたのは内蔵カメラの違いだった。iPhone 12 Pro Maxは望遠側のカメラが標準カメラの2.5倍望遠となり、さらに標準(広角)カメラにはセンサーシフト式手ぶれ補正機能が光学手ぶれ補正と共に搭載されていたわけだ。

iPhone 13 Proシリーズの搭載カメラは今年も一新されたのだが、それは別の記事に譲るとして、ここではiPhone 13の内蔵カメラにフォーカスして評価のポイントをお伝えしていきたい。なお、13と13 miniの内蔵カメラは全く同じものになる。

昨年は縦に並んでいたカメラだが、今年はカメラベゼル部に対し斜めに配置されている。これは決してデザイン上のアクセントではない。実際に斜めに配置する必要があったのだ。

なぜなら主に利用する広角レンズにセンサーシフト式手ぶれ補正が導入されたため。またレンズも昨年のiPhone Pro Max相当となり、全体にカメラモジュールが大型化している。そのため、全体のレイアウトを見直す必要が生じ、配置が変化したわけだ。だが、変化は配置だけではない。

IPhone 13は左右ボタン位置が下げられている。これは13 Proと共通デザインにするため、大型化したiPhone 13 Proのカメラベゼルに合わせたものだが、iPhone 13 miniは大きくなったカメラモジュールを収納できず、0.2mmちょっと厚みが増した。このため従来のアクセサリは使えないと考えた方がいいだろう。

シンプルで制約が少なく使いやすいカメラに

今年のiPhoneは特にProのカメラに大きな手が入ったが、一方で使いこなしにはやや癖が出てしまった部分もある。主にはiPhone 13 Proシリーズのカメラを評価した別記事をご覧いただきたいが、超広角カメラのマクロ機能へと自動的に切り替わる部分が悩ましい。フレーミングが変化してしまうからだ。

関連記事:iPhone 13 Proのカメラを使って見えた13との違い 撮影そのものを楽しむこだわり派に

詳細はiPhone 13 Proの記事でお伝えしたいが、画質と機能だけがシンプルに進化したiPhone 13は考慮すべき点が少ない。流石に昨年モデルから買い替える人は少ないかもしれないが、iPhone XS世代より以前と比べるとその差は明らか。

また昨年、大幅に画質が上がり、HDRビデオ撮影も可能になった動画撮影機能はさらに新しい機能が盛り込まれ、シネマティックモードと呼ばれるボケ味を生かした動画を使えるようになっている。

超広角による表現力を気に入っている人なら、超広角カメラでのナイトモードが使えることにも注目してほしい。というよりも「超広角ではナイトモードは動かない」ことを意識せずにすむ、シンプルで制約の少ないカメラになったと言える。

自分なりの画作りを記憶させておけるフォトグラフスタイルなどと合わせて後述するが、シンプルに自動で好ましいものになる一方、個性を引き出すための簡単な仕組みが導入されていることも今年モデルの変化と言えるが、それについては後述したい。まずは画質について、抑えるべきポイントを見ていこう。

高画質になったと感じる決め手はスマートHDR 4

画質面ではフルオートで撮影した際の違いとして、もっとも大きな差を生んでいるのはスマートHDR 4だ。スマートHDR 3との具体的な処理内容の違いは明らかではないが、結果としての違いは明らかで、よりコントラストが高くディテールの深い描写になる。写真全体のコントラストは当然同じなのだが、被写体ごと局所のコントラストが高く広いダイナミックレンジで描かれる。

電車のホームを写した写真で比べると、線路周りの石がより立体的に見えるはずだ。スマートHDRは被写体を分離し、それぞれの素材に合わせてコントラストをつける。どちらのスマートHDRでも、空、ホームの日向、日陰、それに線路周辺など、異なる輝度範囲の被写体が分離され、異なる現像になっているが、スマートHDR 4ではより積極的に被写体ごとの最適化をしているのがわかる。

その上で明治神宮境内で写したダイナミックレンジの広いシーンを見ると、人物の立体感はもちろん、背景となっている樹木の質感、立体感が全く異なっていると感じるだろう。特に樹木の幹は、より立体的な描写になっている。

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日常的なシーンを撮影しているときにも、ずいぶん、ぱっと見にキレイな写真と感じることが多い新しいカメラの画質だが、そうした印象を持つ理由の背景にはスマートHDR 4が大きく寄与しているようだ。

もちろん、こうした被写体を自動認識して現像を最適化することを好まない人もいるだろう。逆光で人物を撮影したのなら、空は白く飛ぶはずだというのは全くその通り。順光で撮影した人物に露出を合わせれば、それ以外の被写体のコントラストは下がって然るべきなので「不自然」という意見もわかる。

そうした場合はスマートHDRをオフにして使うこともできる。ただ、肉眼で風景を見る際には、それぞれ注目する被写体ごとに露出が合う。確かに一つの写真としては不自然かもしれないが、かといって後処理でレタッチをして要るわけでもない。“AI時代のデジタル写真“として考えるなら、決して間違った方向ではないかなと個人的には感じている。

お仕着せではない自分だけのフォトグラフスタイルを

一般的な写真撮影の範囲内であれば、まずはレリーズ。写真さえ撮影すれば、あとはiPhoneが被写体ごとに適切な現像処理を行うというのが、iPhoneが自社開発のSoCで実現していることだが、そうは言っても好みもある。

コントラストが強めのS字トーンカーブが好きな人、暖かいトーン、冷たいトーン、ソフトなトーンかつ艶やかになど、自分なりの風合いがあるならば、好みを”フォトグラフスタイル”として登録しておけば、自分の好みに合わせた写真で撮影できる。

Appleは”標準”、”リッチなコントラスト”、”鮮やか”、”暖かい”、”冷たい”の5つのスタイルを用意しているが、それぞれについて「トーン」と「暖かみ」という二つの軸について、±100段階に調整できるようになっている。100段階というと、かなりの大袈裟な効果になりそうに想像するだろうが、最大限に補正すると流石に大きく画作りが変化するものの、破綻するほどではない。また現像時のパラメータを変化させるものであるため、レタッチとは異なり情報量の低下がほとんどないのが良いところだ。

あらかじめ「設定」の「カメラ」から5つのプリセットをカスタマイズしたり、デフォルトで適用されるスタイルを指定したりすることが可能だ。また撮影時にプリセットを選択したり、プリセットのパラメータを調整したりもできる。

撮影者の意図を細かく汲み取るための仕組みを導入している事になるが、一方であまり複雑になり過ぎていないことは好ましいと言えるだろう。これは他機能にも考え方として及んでおり、Liveフォト機能には”自動”が追加されている。状況に応じてLiveフォトで保存すべきと判断したならばLiveフォトに、レリーズ前後のフレーミングが安定していない場合は通常の静止画で撮影される。

このあたりは±で100段階と、かなり細かく調整できる上、さらに好みも幅広い。Appleの基本プリセットを参考に、そこから好みに微調整していくのがいいだろう。「設定」からフォトグラフスタイルを選ぶと、作例に対してどのように現像パラメータが変化するのかを画面で確認できる。

シネマティックモードが楽しい動画撮影

ところで今回のテストで一番楽しく使えているのが”シネマティックモード”だ。これは映画的な映像を自動処理、手動での制御を含め、簡単に撮影できるというものだ。

これまでの”映画みたいに撮影できる”カメラの機能は、多くは24fpsのサポートや、映画のようなルックの採用(色再現マップとトーンカーブなどで独特の雰囲気を出すこと)などでお茶を濁すか、あるいはソニーのXperiaシリーズのように本格的なシネマカメラの機能を搭載するといったものばかりだった。

しかしAppleは全く違う方向からこの取り組みを行っている。機械学習や演算能力によるレンズの光学特性シミュレートで映画ちっくな映像を得ようとしている。

簡単にいえば、静止画写真向けのポートレイトモードを使っての動画撮影を可能にしたのだ(ただしライティング効果などの切り替えはない)。ポートレイトモードと同様に被写体を認識した上で、その被写体以外を光学特性を演算した上でボケ効果を加えてくれる。(もちろんインカメラでも利用可能だ)

動画であるため、ピントを合わせたい被写体は次々に変化することになるが、画面のライブビューには認識している被写体を「顔」「体」などの単位で表示してくれ、タップすることで切り替えることが可能。その際、静止画の場合とは異なり、ゆっくりとフォーカスが変化してくれる。

またどの被写体にピントを合わせるかを機械学習により自動切り替えするのは、Appleのデモ動画などで紹介されている通り。使っていると、何かを喋っている人にピントを合わせてくれる気がするのだが、完璧に動作するわけではないのでやや自信が持てない。

ちなみにiPhoneが自動では認識しない被写体も画面上をタップするとフォーカスを合わせて追尾してくれる。物体の形状が認識できないほどフレームから外れるとフォーカスを失うが、認識されている間は追尾するため、人物と何かの物(例えばグラス)の間のピントを動かすことが可能だ。つまり、単にボケるだけではなくフォーカス位置が変化することによるボケ味の変化が動画上で楽しめるということ。

さらには後編集にも工夫が加えられている。ボケの大きさをF値で変えられるのはポートレイトモードと同じだが、自動で行われた被写体の切り替え位置がオレンジ色のマークで示されているのが画面からわかるだろうか。

これに対して時間軸上の位置を指定した上で、画面上で別の被写体をタップすると、iPhoneが自動的に選んだ被写体とは別の被写体にフォーカスを変えることができる。(マークはグレーで表示される)

この機能を使うと会話で喋ってる人が変化するタイミングでフォーカスを切り替えたり、あるいは別の物体に合わせたりといったことが”後から”可能になる。

ただし、シネマティックモードは”後からボケを入れている”機能であることに注意してほしい。もともとピントの合っていない被写体はボケたままだ。ただ、この点はProではないiPhone 13に少しばかり良い点もあり、センサーが少しだけ小さいためピントの合う範囲も広い。実際、明るい晴れの日の撮影では、シネマティックモードはProよりも使いやすかった。(画質の違いはもちろんあるが明るいところでは小さい)

他にもポートレイトモードと同様に超広角カメラが利用できない、あるいは画素数は1080Pが最大でフレームレートは30fpsという制約はあるが、画面全体にレンズの光学特性をシミュレーションする演算処理が常に行われているため、まるでシネレンズを使って動画撮影しているような美しい映像になるのは魅力的。一度撮影を始めると、ずっとこのモードで撮影したくなるほどだ。

明確になってきたコンピュテーショナルフォトグラフィーの成果

よく「今回のiPhoneは買いですか」「今度のカメラはどうですか」と尋ねられることがあるのだが、今や毎年iPhoneを買い換える人はかなりの少数派だろう。自分が欲しい時にとしか答えられないが、では今の瞬間、iPhoneシリーズの中で何を選ぶ? といった場合、カメラ画質を重視するならば、iPhone 13シリーズをどうぞと言うだろう。

iPhone 11で大きくカメラ画質が良くなった後、カメラ以外の要素で決定的な違いは感じないが、12、13と着実に進化している。スマートHDR 4やシネマティックモードなどにあるように、光学特性のシミュレートや被写体の分離と現像処理の最適化などコンピュテーショナルフォトグラフィーのアプローチを煮詰め、独自SoCとの組み合わせで何かしらのアップデートがなされている。

毎年新しくなるSoCの能力は、もちろんサードパーティのアプリでも利用できるのだが、最も効果的に使っているのがAppleのカメラだとも言い換えられるだろう。”今年買い替えたい”ならば、ラインナップには11、12が安価に残っているが、13を選びたいところだ。

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